蜂蜜漬け紳士の食べ方
エレベーターの扉が音もなく閉まった。
外界と遮断された瞬間、伊達がいくらか緊張を解いたように口を開く。
「……アキ、君、大分酔っているね?」
「え?」
伊達は何のためらいもなく、最上階のボタンを押した。
箱は静かに静かに上がっていく。
「あのおじさんに飲まされたのは何?」
まだつっけんどんな口調であることに変わりはないが。
「えっと…ロングアイランドアイスティー2杯と、アレキサンダーですけど」
ふうん、と伊達がさも面白くなさそうに平坦に言葉を落とした。
「どっちも『レディキラー』だな。…そんな事だろうと思ったけれど」
「レディキラー?…って何ですか」
彼の視線が、チラとアキへ向けられる。
そして再びエレベーターの扉へと戻り、伊達は口を開いた。
「口当たりが良い割に、アルコール度数がやたら高いカクテルのこと。
つまり、男が女をベッドに連れ込むためのカクテルっていう意味だよ」
「へ、へえ…そうなんですか………」
「ロングアイランドアイスティーと言えば、口当たりが甘い割に度数が20度を越えてるから」
「!にじゅ…っ」
「そう。ビールの約5倍」
「だってあの人、アルコールに弱い私にって…」
彼女の狼狽に、彼は登るエレベーターのドアを見つめたまま淡々と続ける。
「知らなかったのかい?あいつは、女性問題で日展の審査員を降ろされたんだ。
あちこちに手を出しては問題を起こしていてね。
概ね、君を酔わせて上の部屋にでも連れ込む予定だったんだろう」
彼女を見ないままの飄々とした口振りに、アキは自身の口を押さえた。
チン、という音と共にエレベーターが開く。
「こっち」
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