蜂蜜漬け紳士の食べ方
最上階と思われるフロアは、人気がまるで無かった。誰一人として姿がない。
パーティー会場やバーフロアとは違い、宿泊ルームだからだと、アキは50メートルほど歩いてようやく気付いた。
静かすぎて、絨毯の上を歩く音ですら耳に障るほどだ。
伊達はやはりアキに見向きもしないまま、ある一室の前に立つ。
手慣れた様子でカードキーを差し込み、その重厚な扉を開けた。
「………。伊達さん、あの、パーティーは」
「義務は果たした。私ではなくスポンサーが主催なんだから、あとは好き勝手やればいい」
彼の不機嫌な声は、相変わらずだ。
果たしてパーティーでどんな事があったのかアキには分からないが、それよりもやはりこのあからさまな不機嫌の原因は、氏家と二人きりで飲んでいたことなのだろうと彼女はぼんやりと気づいていた。
だって、先程エレベーターでこっそり確認したスマートフォンに、中野からの着信など皆無だったのだ。
「さ、入って」
通された部屋は、宿泊には広すぎるほどの広さだった。
テーブル真ん中の花瓶に飾られた薔薇は甘い匂いをいっぱいに漂わせているが…
今のアキには、そんなことなど気にかけている余裕などない。
「やはりパーティーなんてものは疲れるね。ああいうのはどうも苦手だ」そう言って、ネクタイを緩める伊達に、アキが恐る恐る再び口を開く。
「あ、…あの…伊達さん」
「なんだい」
「お、おこって…ます?」
「どうせ君のことだ、万が一何があっても人の目があれば大丈夫だとでも考えていたんだろう」
さすが伊達、というところだろうか。
何の説明もしないうちに、アキの浅はかな思考はあっけなく読み取られた。
「…いや、でもね」
伊達が曖昧に笑ってみせる。適当な、笑み。
「正直、面白くはないね。…あんなじいさんにアキが懐柔されかけたのは」
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