蜂蜜漬け紳士の食べ方
真っ暗な一室。
電気を付けないままで、出入り口の重厚な扉が静かに静かに閉まった。
部屋奥の一面張りのガラスから、ぼんやりと街の明かりが漏れ広がっている。
「もう少し君は危機感というものを持ったほうがいい。…前にもそう話さなかったかな」
伊達はアキを見下ろしたまま、呟いた。
酔った男からの無理やりな救出。
連れてこられた暗いホテルの一室。
その、出入口。
ドラマならきっとこのシーンに甘いBGMを流して、ムードを高めてくるのに…。
今のアキに去来していたのは、ときめきではなく、一種の恐怖に似たものだった。
自分を見下ろす伊達の視線が、そうさせている。
自分が望む回答を口にするまで絶対に逃がすものか、と言わんばかりの目が、そう感じさせている。
「……すみま、せん…そういう方だとは、知らなくて」
「…………」
謝罪を口にしても変わらずに落とされる冷たい視線に耐えきれず、アキは目を伏せた。
伊達は続ける。
「アキ」
ひどく低いままの声で。
「もう、終わろう」
とても簡単な一言を。
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