噎せかえる程に甘いその香りは
『長谷川課長の気持ち分かります。状況は少し違えど、…私も同じですから。どんなに希っても泣き叫んでも手に入らなくて。…手に入らないと分かっていても欲しいと渇仰する気持ちは捨てきれなくて……時々、どうしていいのか分からないくらい寂しい。』
それがどんな誘いなのか分からないほど子供ではない。
それ故、そんな提案を水守さんみたいな子がしてきた事に正直驚いた。
そして、単なる噂であった筈の副社長との関係が思わぬ形で本人に肯定されてしまった。
咄嗟に返事が出来なかったのは色々驚いたからだが何より―――
“寂しさを慰め合うのは悪い事でしょうか”
その応えが正なのか否なのか俺には分からなかったからだ。
どんなに願ったって欲しい物は手に入らないと頭ではちゃんと理解しているのに、ふとした拍子に発作的に喚きたくなるような寂しさと切望に襲われる。
そんな自暴自棄にもなりたくなるような時を俺も知らないわけじゃない。
だけど、寂しさを他の何かでほんの一時紛らわせた所で、虚しいだけなんじゃないだろうか。
応えあぐねる俺に水守さんは俯き「スミマセン。今のは忘れて下さい。」と小さく呟いた。
そこから俺は必要以上に呑んで必要以上にしゃべり続けた気がする。
時折フワリと鼻孔を掠めるあの香りを意識から追いやるように。
そして気付けば部屋で彼女を抱いていた。
結局俺は追憶の香澄に縋るように水守を香澄の代わりにしてしまったんだ。
『ゴメンな…水守』
謝った俺に水守が少し困ったような寂しげな顔で微笑んだのは今でも鮮明に記憶にある。
『…いいえ。そんな事は最初から分かっている事ですから。それに………私も同じですから。』
俺を愛しても手に入らない男の代わりにして抱かれたのだ―――と。
その時俯き加減で薄ら笑ってさえいる彼女が俺には泣いているように見えた。
水守はその歳以上にとてもしっかりした子で、あまり感情を露わにしないから俺が分からないだけで、本当はかなり苦しんで傷付いてきたのかもしれないな。なんてその顔を見てボンヤリ思った。
多分、この関係を続けた切欠の一つが彼女の見せたそのアンバランスな所だ。