噎せかえる程に甘いその香りは

最初は遠慮がちに―――時間が経つにつれ徐々に彼女と過ごす日は増えて、それと同時に二人の時間も少しずつ形を変えて行った。

寂しさを紛らわせるために貪るように体を求め合う関係から、寄り添ってゆっくりと柔らかい時間を共有する関係へ。

…と言っても体の関係が全く無くなったわけでもないが。


仄に請われて、香澄との思い出話もよくした。

彼女にしてみたらウザイだけの他人のノロケ話だろうに、まるでシャハラザートが話す千夜一夜物語みたいに仄は俺の話に静かに耳を傾け優しい相槌をくれる。

今更だが、彼女は人に話をさせるのが上手い。

というか、彼女が聞き上手なんだよな……。

それと対照的に彼女はあまり自分の話をしない。

その上俺も彼女程聞き出し上手ではない。

そんな中俺が彼女から聞きだした情報は想像以上に切なかった。

彼女はもともと片親で幼い頃は父と母が揃ったフツーの家庭にあこがれていた事。

その母親も彼女が高校生の頃病気で亡くなってしまった事。


『そんなだったから……彼の優しさに絆されて縋ってしまってるのかもしれませんね。』


副社長への想いをそう綴って彼女は自嘲気味に小さく笑った。



そんな感じで半年が過ぎた頃、俺はある疑問に駆られていた。


副社長と仄の関係。


仄と関係を持って浅い頃、俺は彼女に言った。

直ぐには無理かもしれないが、副社長とはちゃんと別れるように、と。

副社長が恋人と別れる様子は微塵もなく結婚も秒読み段階。

今はともかく、そうなったら紛う事無き『不倫』だし、日蔭の身で仄が不幸になるのは目に見えている。

俺の説得に彼女は少し困惑の表情を浮かべたが、分かったと頷いた。


その約束を守ってくれてるだけってんならいいけど―――……

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