噎せかえる程に甘いその香りは
会社では相変わらず彼等の噂がまことしやかに流れているが、仄と居るようになって半年……最初からこれまで二人の関係を匂わせるような行動の何一つなかった。
噂があって、仄自身もそれを肯定したから何となく信じてしまったが、
……全て嘘だったんじゃないか?
嘘だったとしたら、仄はどうしてそんな嘘を吐いた?
嘘を吐かれたんだとしたらちょっと不愉快だが、それでもやっぱり仄がそんな苦しい想いに身を投じて無くてヨカッタと思える部分が大きい。
だから副社長と仄の関係がデマであれば良い事には違いない筈なのだが―――
俺の心中は複雑だった。
そもそもお互いを慰めるという前提で始まったこの関係。
仄を慰める理由がないとしたら、この関係はどうなってしまうんだろう。
その頃には既に仄と一緒にいる事が居心地良く当たり前になっていた俺は、関係が壊れる事を懸念してその事実を追及出来ないでいた。
それはそんな折りだった。
難関を極めた契約が決まって企画課と販促課合同で祝杯をあげる事になった。
繁華街の居酒屋での宴会も無事終わり、気の早い者は二次会へ移動し始め、後は居酒屋を出た路上でぐだぐだな立ち話。
俺は一応二次会へ誘われてはいたが、正直なところ帰りたかった。
今回の企画を成功させる為に最近残業続きだったし、出来るならさっさと家に帰って寛ぎたい…。
今日は企画課との合同宴会だから勿論飲み会には仄も参加していた。
仄はこの後どうするつもりかな。
そんな事を思っていた時、立ち話をしていた周囲のヤツ等がにわかにざわめいた。
『あれって、社長様ご一行じゃん。』