やっと捕まえた。
笠原葵。あいつは、俺を覚えているか?

初めて会ったのは、
高校生のとき。

生まれてからずっと、緩い環境の中で育ち、甘やかされて育った俺
ただ、家族というものを知らない。
世話をするのは、お手伝いさん。

両親は、それぞれ仕事を持ち留守がちだった。金を注ぐことが愛情と勘違いする
母親に、少しずつ反発し、
人見知りで
無愛想、無口、人嫌い。そんな俺が
出来上がった。
親として、心配したのか?
ある日突然、親父から、今の学校が嫌かと聞かれた。

「みんな、金持ちボンボンとしか見てない。俺を知らない場所に行きたい!」

初めて、言った本心。

黙って、転校手続きをして、
この高校に転入した。

なんとなく入った部室。

葵が入っていた部活
映画部だった。
コミカルな物やシリアスな物
いろんな映画を観て
あーだこーだ言い新作映画の批評をしてり、自主制作で映画を撮ったり、
その中で、セットを作っているやつ
一人楽しそうに。
なんとなく感じた、内に秘めた
哀しみのような‥。
思わず、
「それなに?」俺は聞いた。
目を輝かせ
一生懸命話してくる。

久しぶりに楽しかった。

毎日入り浸り色んな事を聞いた。
退屈しない。この空気。

知らない間に、俺の中で
存在を大きくしていた。

夏休み明けにまた、行ってみた。
葵は、転校していた。
何も言わないで俺の前から
消えた
< 9 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop