TRIGGER!2
☆  ☆  ☆



 マンションを出て彩香が向かったのは、駅にほど近い場所。
 佐久間心療内科クリニックだ。
 屋上のドアは通らなかった。
 取り敢えず、自分の身体の中にあるモヤモヤしたものを、1つ1つ解決していくしかない。
 じゃなきゃ、おちおち寝てもいられない。
 今朝と同じで、医院は休業していた。
 彩香はデニムのショートパンツの後ろポケットに両手をつっこんだまま、五階建ての建物を見上げる。
 すると。


「今日は休診日ですよ」


 そう声を掛けられて振り返ると、そこには車椅子を押した中年の女性が立っている。
 日除けの黒い帽子を被っているが、小太りのその女性はこの暑さに、額に汗を浮かべていた。
 車椅子には、つばの大きな麦わら帽子を目深に被った少女が座っている。
 身体つきを見ると少し痩せすぎているくらい痩せていて、ブラウスの半袖から出る腕も、ロングスカートから見える足首も華奢だった。


「それとも、どなたかのお見舞いかしら?」


 彼女の母親らしい中年の女性は、おっとりとした優しい口調で言った。
 彩香は笑顔を浮かべる。


「いや、ちょっと診察時間を見たかっただけなんだ。近くまで買い物に来たから」
「まぁ、そうだったの」


 肩から掛けたトートバッグからハンカチを取り出すと、汗を拭きながら頷く女性。


「それなら、中にパンフレットがあるから、お持ちしましょうか?」
「本当? 出来たらお願い出来るかな?」


 彩香が言うと、女性は快く頷いて車椅子を押しながら、建物の裏手に進もうとした。


「あ、あたしが押すよ」


 彩香は車椅子のハンドルに手を掛ける。
 ありがとう、と、女性は笑った。
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