コトノハの園で


「でも……このベンチ、というか、この中庭、森野さんのお気に入りですよね? それは私もそうなんですが、ここにいるのは、ご迷惑じゃ……」


こんなふうに訊かれたら、森野さんが答えられるのはひとつだけ。


「……いえ、そっ、そんな……。ここは僕の私有地ではなく公共の場なので、ご自由に……」


「あと、ゆっくりできる場所と時間がここだけなんじゃないかと、心配もしています……。森野さん、大学で教授の助手もしていらっしゃるから、お忙しいですよね。ひとりで休憩されたい場合は、そこは遠慮なく仰ってください」


これは誘導なんかじゃなくて、本当に心配なこと。


「っ、いえっ、それは平気ですっ。桜ちゃんが言うほどのことを、僕は、していないです……っ、ただ、学生の頃から、僕は資料を探し出すのが上手いと持ち上げられていて、っ、それがっ、今も続いているだけの……ただそれだけのことなので、疲労でも、なっ、いですから」


「なら、良かったです。――それにしても、公共なのに、ここは秘密基地みたいですね。それがいいんですけど」


「っ、……ですねっ」


結論は同じ。でも、その理由には、大きなおおきな差異がある。


「じゃあ――しばらくの間、よろしくお願いします」


「……っ、はい」


言葉を詰まらせながら、怯えながらの了承に、私は悪びれもせず喜んだ。


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