ショータロー☆コンプレックス
しかし、視界の端にその動作を捉えてはいたものの、男の方に気を取られていたオレは、一瞬反応が遅れた。


連携がうまく行かずに、辻谷の手からオレの手に渡るハズだった鍵は音を立てて床に落ち、しかも反動がついていてツツ、と数十センチ先まで滑って行ってしまった。


普段なら別にそんなのはテンパるほどの事ではない。


だけどこの状況下では、尋常じゃなく肝を冷やす出来事であった。


「あっ」


オレが慌てて観葉植物の陰から飛び出し鍵を拾おうとしたのと、男がこちらに視線を向けたのはほぼ同時だった。


結構な距離があるにも関わらず、男の、かなり怪訝そうな表情がはっきりと確認できて、オレは思わず中腰のまま固まってしまった。


情けない話だけど、正直、ビビってしまったのだ。


相手は結婚詐欺師。


いや、現段階では確定ではないけれど、でも、目と目が合った瞬間に分かってしまった。


やっぱりアイツはカタギではないと。


明らかに常人とは種類の異なる、とてつもなく暗くて冷たくてねじ曲がったオーラのようなものを、男から感じ取ったのだ。


確かにビジュアルは悪くない。


この距離では正確には計れないけど、おそらく180近い長身で、身に着けている物もセンスが良く、ホストで食って行こうと決断したのも頷けるくらいの容姿ではある。


そして、一見上品なお坊ちゃん風に見えない事もない。
< 57 / 63 >

この作品をシェア

pagetop