ショータロー☆コンプレックス
「あ、あの、つじ……」「なぁ、今さら帰るだなんて言うなよ。みどり……」


オレの言葉を遮るようにそう言うと、辻谷は際限まで距離を縮めて来た。


そしてオレの腰に左腕を回し、自分の方に引き寄せる。


あっけに取られている間に、今度は右手をオレの顎の下に添え、強引に上を向かせると、あろうことか……。


「うそっ。マジ?」


唇に、唇を重ねて来やがった。


「なぁなぁ。あれって、男同士だよな?やばくね?」


「い、良いから、早く行きましょう」


辻谷の肩越しに、興奮気味に言葉を発する男の声と、焦りつつもそれをたしなめるような女性の声が聞こえて来た。


「世の中には色んな人がいるんだから……」


「そうだな。うかつに関わらない方が良いよな」


そんな会話を交わしながら二人はエレベーターに乗り込んだらしく、すぐにその気配は消えた。


「……んなっ」


オレは必死にもがいて辻谷の腕を振りほどくと、間髪入れず、奴の左足のつま先を思いっきり踏んづけた。


「いってー!!」


悲鳴を上げながら、奴はその場に蹲る。


「テメェ……。何しやがんだよっ」


「そ、それはこっちのセリフだ!!」


下から睨み付けてくる辻谷の顔は超絶に恐ろしかったけれど、しかし、今はそれよりも奴への怒りの方が勝った。


「い、いきなり、キ、キッスなんかしてきやがって!」
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