ショータロー☆コンプレックス
オレは漫画みたいに両手をブンブン振り回して地団駄を踏むと、キッと辻谷を睨み付けた。


「返せ!」


「…うるせーな。言われなくても返すよ」


眉間にシワを寄せながら、辻谷は右手でポケットをまさぐり車の鍵を取り出すと、こちらに差し出して来た。


「違う!」

「あぁ?」

「数分前の、オレの唇を返せ!」


瑠美ちゃんに捧げる筈だった、誰もまだ足を踏み入れていない、朝の雪原のように清らかなオレの唇を!


「お前なぁ……」


はぁ~、と深くため息を吐き、頭髪をガシガシとかきむしったあと、辻谷は続けた。


「そんな、ヤロー同士でキスしたからって大騒ぎするような事じゃねーだろ。別に減るもんじゃなし」

「へるもん!」


こういう場面で言い負かされる事の多いオレにしては珍しく、すぐさま反論の言葉が浮かんだ。


「唾液とか粘膜の細胞とか、DNA的なものが、確実にお前に持っていかれたもん!」


「なんだその屁理屈。ガキかよ」


すこぶるバカにしたような半笑いの表情で、オレの言葉をバッサリと切り捨てた辻谷に、オレはさらに怒りが湧いて来た。


何でそんな居丈高な態度を取られなくちゃいけないワケ!?


コイツは全然分かってない!


こんな汚れた唇では、今日はもう瑠美ちゃんにキスなんかできない。


彼女と辻谷を、間接的にキスさせるようなもんだ。


そんなおぞましい真似ができるかっ。
< 62 / 63 >

この作品をシェア

pagetop