僕と、君と、鉄屑と。
「家族が欲しいって言うんだ」
「……そんなこと、できるわけないだろう!」
「直輝、これで全て、上手くいく」
「……できない」
「やるんだ」
「人の命を、弄ぶようなことはできない!」
「もう、後戻りできないんだよ。僕達は、進むしかない。じゃあ、なんて言うんだい? 麗子に、僕達の関係を話すのか? 麗子は死んだ恋人を、君に見ている。君を完全に失ったら、彼女はどうなるのかな。ねえ、直輝、彼女を救いたいなら、もう、こうするしかないんだよ」
「やっぱり間違ってたんだよ……こんなこと……間違ってた……」
直輝は跪き、ロザリオを握りしめ、祈っている。僕は、直輝を愛しているけど、その姿だけは、なぜか、いつも僕を苛立たせる。
「時間がない。直輝、彼女の部屋へ行くんだ」
「できない」
「行くんだ。行って、抱きしめて、言うんだ。家族が欲しいって。……愛してるって。そして、君の分身を、彼女の中に……植えつけろ」
「お前はそれでいいのか? お前は辛くないのか?」
「言っただろ? 僕は、君のためならなんでもする。どんな苦痛でも耐えることができる。君だってそうだろう? 僕のためなら、どんなことでもできるだろう? それとも、僕を愛していないの?」
ロザリオを握りしめたままの僕の恋人は、何も言わない。余計にそれが、その姿が、僕に悪魔を呼ぶんだ。
「僕と思って、麗子とセックスするんだ。そうすれば、いつかは、命が宿る。ねえ、直輝。それはね、僕にはできないんだ。僕と君は、どんなに愛し合っても、それだけは、できない。僕も、君の子供が欲しい。ね、それを僕の代わりに、麗子にさせるだけだ。それであの女も幸せになる。誰も傷つかない」
直輝は顔を上げて、目を閉じて、許したまえ、と呟き、立ち上がった。
「麗子はきっと、関口の所に行く。その前に、ね。引き止めるんだ。絶対に、行かせちゃ、ダメなんだ」
「……間違っているよ、俺達は」
「何が正しいかなんて、ないんだ」

 直輝は項垂れたまま、部屋を出て行った。これでいい。これで、全てが守られる。絶対に、最善の方法のはずだ。僕が間違うはず、ないんだ。
 窓の下に、闇に消えていく、直輝の車が見えた。

 直輝、僕達は、愛し合っているから、僕達の未来は、一緒なんだよ。
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