僕と、君と、鉄屑と。
「麗子さん? お加減でも?」
「ううん。大丈夫。ちょっと疲れたのかしら」
「そろそろ、戻りましょうか」
私達は、カフェを出て、車に乗った。外はまだ寒いけど、車に乗ると、柔らかい陽射しが窓から注いで、まるで、春が来たよう。
「ねえ、ちょっと、寄って欲しいところがあるの」
「どちらですか?」

 この場所に来るのは、何年ぶりだろう。あの人がいなくなってから、私はこの場所へ、来ることができなかった。何度も近くまで来たけれど、この、私達が昔、飛行機を見ていたこのベンチに、そして、あの人が最後に座ったこのベンチに、私はたどり着くことが、どうしてもできなかった。
「わあ、いい眺めですね!」
「飛行機がね、よく、見えるの」
そうしてる間にも、何機もの飛行機が、私達の頭の上を、通り過ぎて行く。毎日のように、あの飛行機に乗っていた日々が、もう遥か昔のことのように、感じる。

 私達のデートは、だいたいここで、たまには代官山とか表参道でデートしたいという私に、彼は苦笑いをした。彼はパイロットのくせに、全然派手なところがなくて、ブランド品にも、オシャレなレストランにも、興味がなくて、スーツ以外の私服は、はっきり言って、いけてなかった。イケメンなのに、全然女の子に慣れてなくて、デートもレストランも、何もかも、私任せ。
 でも、優しかった。相変わらず叱られてばかりの私を、いつもかばってくれて、慰めてくれて、元気づけてくれた。
 私は彼がいるから、CAをやっていれた。絶対に、私を裏切らないって、信じてた。私を一人になんかしないって、信じてた。

「思い出の場所なの」
「素敵な場所ですね」
「直輝には、内緒よ」

 ねえ、透。私ね、愛してるの。あなたによく似た、あの人のこと。そしてね、このお腹の中には、あの人の子供がいるの。透、教えて。あの人は、あなたみたいに、一人で、苦しんでる。どうしたらいい? 私、どうすればいいの? もう、失うのは、イヤなの。一人になるのは、イヤなの。透、どうすれば、あの人を救えるの? ねえ、教えて。
 透……これは、罰なの? 私があなたを殺してしまった、罰なの? 私だけ、幸せになんて、やっぱりなっちゃ、いけないの?

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