僕と、君と、鉄屑と。
取引

(1)

 僕の隣に、直輝が座っている。僕達は、何も言葉を発することなく、僕の、駐車場にいる。薄暗い駐車場には、僕達以外に、誰もいない。静まり返った地下のこの場所に、僕の車がアイドリングする、エンジン音だけが、響いている。

 変わらず、直輝は僕を抱いていた。あの、汚らわしい女を抱いた体で、心で、僕を抱いていた。まるで、かつての『同じ彼ら』のように、僕のことなど、もう、愛していないくせに、直輝は、優しく、変わらず、僕を、抱いていた。

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