僕と、君と、鉄屑と。
「祐輔!」
群衆の中に、直輝がいた。直輝は僕をめがけて、一心不乱に、走ってくる。人をかき分け、走ってくる。
「麗子か? あれは麗子なのか!」
僕は、初めて見た。そんな、直輝の顔を。こんな、険しい顔の直輝を、初めて見た。
「麗子!」
救急隊と一緒に、直輝は救急車に乗った。僕のことなど、一瞥もせずに、直輝は、救急車に飛び乗り、麗子の手を握って、救急車のドアが閉まり、けたたましいサイレンを鳴らしながら、救急車は、渋滞の道路へ出て行った。僕は呆然とそれを見送り、ざわざわと散らばって行く雑踏の中で、一人、立ちすくんだ。

「村井さん」
振り向くと、関口が立っていた。
「ジャーナリストの前に、俺、人間、なんだよね」
差し出した手には、あの封筒と、写真が、あった。
「あんたもさ、人間、だろ?」
僕はそれを受け取り、彼に言った。
「僕はもう、人間じゃない。悪魔だ」
「あっそう。なら、もう勝手にしなよ。俺は人間しか、相手にしない」
関口は悲しげな目で僕を見て、じゃあ、と背中を向けた。
「関口くん」
「なんだよ」
「君は、僕のシナリオ通りに行動しなかった。これは、契約違反だ」
「裁判でもするって言うのか? あんた、どこまでも……腐ってるな」
「なんとでも言うがいい。そもそも、君は共犯だ。君には、相当の、責任を取ってもらう」

 僕は、もう、悪魔になったんだ。だから、最後のシナリオを、僕は、この、悪魔に成り下がった、最低で、下劣で、俗的な、村井祐輔のために、捧げる。
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