僕と、君と、鉄屑と。

(3)

 季節は春が終わろうとしている。風が、少し蒸し暑い。もう、梅雨に入るのかもしれない。そして夏が来て、きっと、元気な子供が生まれてくる。俺は父親になり、麗子は母親になる。俺たちは、家族になる。本当の、家族になる。

 そして、その一週間後、俺は退任会見を行い、俺達は、東京を離れ、祐輔が紹介してくれた、フリースクールのある、北海道へ、移住する。俺はそこで、教師として働き、かつての祐輔のような子供たちと過ごし、山へ登り、静かに、我が子の誕生を、待っている。
 退任以来、祐輔からの連絡はなく、俺も祐輔に会うことができず、やはり、罪の意識から逃れられずにいたが、雄大な自然と、子供たちと、何より麗子の愛で、俺は、これからの本当の人生を、歩き始めていた。
 夫として、父親として、教師として、大人として、人間として、憂のない自分になれたときに、俺はもう一度、祐輔に、友として、会いたいと思う。その時が来るまで、祐輔、待っていてほしい。そして今度こそ、本当の意味で、お前を、救うことができたなら、その時は、俺を、許してくれ。

「直輝先生!」
祈りを捧げていた俺に、生徒の一人が駆け寄ってきた。
「どうした? そんなに慌てて。イエス様の前だ。静かにしないと」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 麗子ちゃんが、麗子ちゃん、赤ちゃん生まれそうって、病院行ったって! 先生も早く行かないと!」
「まじか! すぐ行く!」
「先生!」
「なんだ!」
「僕が代わりにお祈りしておくからね!」
「おう! 頼んだ!」

 祐輔、ついに、生まれるよ。俺と、麗子と……お前の子供が! 祐輔、守ってやってくれ。麗子と、子供を、な、守ってやってくれ!
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