僕と、君と、鉄屑と。
俗畜

(1)

 僕は、社長室に座っている。そして今、僕の手元には、『ニュースタイムズ』という、三流雑誌がある。

『……前社長である野間氏は、国内の雇用状況改善への貢献と、被災地復興のため、国内での営業強化と、長期的な復興支援を行う方針を打ち立てた。しかし、かねてより、海外進出計画を進めていた村井氏はこれに反発し、強引に野間氏に退任を迫った。まさしくこれは、謀反というべき行為であり、村井氏は、長年の戦友を、同志を、一夜のうちに裏切ったことになる。
 かねてより、野間氏と村井氏の間には不仲説が流れており、同社の元役員A氏によると、表向きはワンマン経営者に思われていた野間氏は、実は民主的で、人情派だったと言う。反対意見も満遍なく取り入れ、一時経営不振に陥った時も、リストラによる人員整理は行わず、役員報酬の返還で、危機を乗り切ったという。一方、村井氏は、創業当初より、野間氏の参謀と言われていたが、社内での評判は芳しくなく、村井氏に敵対し、会社を去った優秀な人材も少なくないという。』
ふむ、あの三流記者にしては、上出来だ。
『とはいえ、学生ベンチャーとしての同社を、今の形にまで発展させた村井氏の経営手腕は、誰が見ても、野間氏を上回っており、今回の内紛劇も、起こるべくして起こったと言える。現に、野間氏退任の後、同社の株価は上昇しており、村井氏の進める、大規模プラントや、IT途上国への人材輸出は、今後、ジャパンピジネスの中心となっていくであろう。今後の村井新社長の経営手腕に、日本の経済力の復活がかかっていると言っても過言ではない。……』
まあ、この部分は褒めてやってもいいだろう。この記事のおかげで、僕の会社も、そして、僕の名前も、世界に広まった。
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