今宵、月が愛でる物語
マンションのエントランスが見えてくる。

月明かりの下、その姿は……あった。

「…………風華。」

突然のことに掠れる声。

「…っ!風華!」

俺の声にビクリと肩を震わせて俯いていた顔を上げる風華に駆け寄る。

「祐…!」

どうしようもないほど抱きしめたい衝動を拳を握って必死で抑えて、持ってる理性を総動員してできるだけ冷静に話しかける。

「……どうした?」


久々に会った彼女はやっぱり、


どこまでも愛しい。


「……祐、あのね。祐……」

再び俯き、口ごもる。

歯切れの悪い彼女が何を言いたいのか…。

「…あ、すみません。」

エントランス前で立ち止まる俺たちを一瞥して住人が出入りする。

「……とにかく、ここジャマになるから来て?」




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