今宵、月が愛でる物語
『それだけ伝えに来た』

そう言ってすぐに帰ろうと席を立つ風華の後を追って玄関へ向かう。


これで…全てが終わるんだ。


たった一年の間に風華はちゃんと前を向き、新しい人生を歩いていた。

いつまでも子供みたいに気持ちを引きずってるのは俺だけか…。

ふと、風華の歩みが止まる。履いてきたヒールはもう目の前だ。

「…言ってくれないの?」

「え?」

「…おめでとうって言ってくれないの?」

玄関を向き、呟くようにそう言った風華の表情はわからないけれど……


寂しそうに響いたのはきっと、俺が寂しいからだろう。


「…………おめでと。いっぱい、幸せにしてもらえよ。」


そうだ。


俺がしてやれなかったぶんも……



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