今宵、月が愛でる物語
涙を堪え、頬を染めて俺を見つめる瞳は、何より美しく…俺の心を捉えて離さない。

そして彼女はゆっくりと、まるで言葉をひとつひとつ丁寧に紡ぐようにこう言った。

「私も、あなたが…ずっと好きでした。

黒崎さん……。好き………。」

胸が高鳴る。

ずっとずっと聞きたかった言葉が、耳の奥でこだまする。

心に灯をともす。

それにその顔………。

なんだよ、そんなに真っ赤になっちゃって、ホントに可愛いヤツ。

思わず笑みがこぼれ、愛おしさが募る。

そして俺は他愛もないお喋りの後、我慢できずにキスしてしまったんだ。

ずっと触れたかったその唇を確かめるように優しいキスをひとつ。


…………………足りない。


心の奥が、もっともっとと俺を急かす。


半ば崩壊しかけている理性を無理やりロープで縛り付けるように纏めて………


「もっかい、欲しい。……いい?」


極めて(俺としては)紳士的にそう聞いた。

けれど……


ダメだった。


返事を聞く前に、その唇を塞いでしまう。

わかっているのか無意識なのか、俺を受け入れるように薄く開かれた唇とそっとしがみつくようにキュッと俺のスーツを掴む手。


……なんだよコレ。煽ってんのかよ。


その後俺は、彼女を離すのにものすごく大変な思いをした。


そう。大変だったんだぞ。


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