今宵、月が愛でる物語
「ねぇ冬汰…。こっち、来て?」

雪だるまを諦めたのか…お気に入りのマフラーをヒラリと流れさせながら急に切なそうにこちらを向いた菫。

プレゼントした時『早く使いたい』とはしゃいで喜んでくれた、ワインカラーの手袋をはめた両手を広げて僕を呼ぶ。

今さっきまで一生懸命雪玉を作ろうとしていたあどけない表情は、もうどこかへ消え去っていた。



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