この恋を叶えてはいけない
 

 




「え……?」


次の日、大学へ行こうとして家を出ると、
アパートから少し歩いたところに、見知った影。

その影を見た瞬間、幻かと思った。


だけど相手もあたしに気づき、ゆっくりと歩を進める。


「……どうして…」

「だってお前が言ったんだろ?

 抱きしめろ、って」


笑って答える彼は、すぐ目の前に来て歩を止めた。



「そう、だけどっ……でもっ……」

「唯香……」

「…っ」



ふわりと体が温もりに包まれる。

大好きな匂いに……。


その温もりに、どうしようもないほどの愛しさが舞い上がって
あたしもその背中に腕を回した。




「……駿っ…」




この世で一番愛しい名前とともに……。
 
< 161 / 326 >

この作品をシェア

pagetop