この恋を叶えてはいけない
「母が……亡くなったんです」
「え……」
予想外の答えだったのか、戸村さんの表情がこわばった。
だからこそ、なんでもないように明るくふるまう。
「あたしの家、幼い頃両親が離婚してて……。
それでずっと母と二人暮らしだったんですけど……その母がなくなって……。
大学に通うのも無理だって思ったんですよ。
だから大学も辞めて、お弁当屋のバイトじゃなく、もっと割のいい仕事にしたんです」
正直、今の会社の派遣として働く前の数か月間、
キャバクラで働いていたこともあった。
でもそれくらいしないと、
家賃や光熱費など、払うことが出来なかったから……。
アパートは、あそこから引っ越している。
1DKだったあの部屋は、あたし一人では広すぎると感じたので
もっと格安の、1Kの部屋。
そしてなんとか無事に派遣の仕事が決まり、キャバクラのバイトも辞めて、
今の正社員という地位を持てたのだ。
「大変やったんやなぁ……」
戸村さんの言葉に、ただ曖昧な笑顔で答えるしか出来なかった。