俺様副社長に捕まりました。
水沢さんはまるで会長のいる場所がわかっているかのように
迷うことなく真っ直ぐ歩いた。
そして中央付近まで歩くとちょっとした人だかりがあり、その中心に
山岡物産の会長である山岡芳弘(やまおかよしひろ)会長がいた。

一気に緊張が襲い、組んだ腕に力が入る。
わたしの緊張が伝わったのか
「大丈夫だから」
耳元でそっと囁いた。
「・・・はい」
水沢さんの言葉を今は信じるしかなかった。

会長が私たちに気が付くと周りにいた人だかりが自然となくなっていた。
「尊か・・・待っておったぞ」
あまり愛想のない表情は水沢さんに似ていた。
いや水沢さんが会長に似ているのだろう。
そしてその愛想のない視線は私に向けられた。
「この人か?お前が言っていた相手は」
既に私の事を知っていたようで特に驚く様はなかったが・・・・
「ん?・・・・どこかで会ったことが」
会長は目を細めながら私をじっと見た。
「そりゃ~あったことあるよ。秘書課にいたんだから」
挨拶したまでは完全に水沢副社長だったのに一瞬で私のよく知る水沢さんに戻っていた。
「・・・・・あ~。そういえば・・・・そうだ。たしか・・・桐山の担当だったな?」
「はい・・・・ですが・・・・今は・・・その」
家政婦をやっていると言わなきゃいけないのに会長を目の前にしたら何も言えなくなった。
だが水沢さんが代わりに話した。
「確かに桐山専務の秘書だったけど・・・今は違う・・・家政婦をやってるんだ」
その途端会長の眉間に皺がよりその場の空気が変わった。
家政婦といった段階で既に面白くないのだろう。


きっといい顔はしないだろうと予測はしていたが実際にそういう顔をされるときつい。
私は自分の仕事に誇りを持っているが、会社のトップに立つような人から見れば
私の仕事は単なるお手伝いさんとしか思われてない。
それが相手の表情一つでわかってしまうのは悲しいことだった。
会長は私をじっと見ると大きくため息を着いた。
そして水沢さんに視線を移した。
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