最後の恋にしたいから
「名越……課長?」

思いがけない人からの声かけに、一瞬呆然とした。

なんで、ここに課長が?

同じ営業部署とはいえ、日頃はまったく絡みがないのに。

「一体何があったんだ? とにかく、早く帰って着替えた方がいい。ずぶ濡れじゃないか」

これ以上、雨に打たれないように、傘を私にさしてくれている。

でもそのせいで、課長が濡れ始めていた。

「ありがとうございます。でも、課長の方が濡れてますよ? 私はもう濡れちゃってるので、傘は課長が使ってください。本当に、ありがとうございます」

立ち上がり、笑顔を取り繕うと、傘をそっと押し返す。

だけど、彼はそれを拒んだ。

「オレは大丈夫だよ。でも、古川はもうこれ以上濡れない方がいい。本当に体を壊すぞ?いくら暖かくなってきたとはいえ、雨の日は肌寒いから」

イメージ通りの優しさに、失恋直後のせいもあり、心に深く染みてくる。

「本当に、ありがとうございます……」

ぎこちなく笑顔を向ける私に、課長は心配そうに聞いたのだった。

「古川のうちは、ここから近いのか?」
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