最後の恋にしたいから
ありがたい申し出だけど、ここは断るべきだと思う。

はっきり言って、今まともに会話をしたくらいの薄い関係性なのだ。

いくらみんなの憧れの上司で、私もカッコイイとは思っている人でも、家へ上がり込むことは出来ない。

「それは、ありがたいんですが、やっぱり出来ないです」

俯きがちに断ると、課長は引くどころか、ますます食いついてきた。

「古川は、ご両親と同居なのか?」

「いえ……。一人暮らしですけど?」

おずおず答えると、彼はどこか勝ち誇ったような顔をした。

「じゃあ、誰かが迎えに来てくれるとかじゃないんだろ?」

「はい。そうですね……」

「だったら、その格好でどうやって帰るんだよ。電車に乗っても、かなり目立つぞ?」

確かに、しずくが滴り落ちるほど濡れているのに、公共の乗り物には乗れそうにない。

ましてや、タクシーなんか乗車拒否をされるんじゃないかしら。

的確なツッコミに反論できず、黙ったまま俯いた。

すると、課長は今度は優しい口調で言ったのだった。

「服を乾かして帰るまで、そんなに時間がかかるものじゃないから。こんな場所で一人でいたら、それこそ変質者に狙われるかもしれないだろ? それに比べれば、オレはまともな方だと思うよ」
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