最後の恋にしたいから
私から警戒心を解く為に、わざと茶目っ気のある言い方をしたんだと分かった。

会社での名越課長は、一課でそんな感じだ。

確かに、こんな雨の夜に一人でウロウロする格好じゃない。

ここは、甘えさせてもらって、服が乾いたらすぐに帰ろう。

もちろん、その時はタクシーで。

「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」

そう答えると、課長は表情を明るくした。

「もちろんだよ。本当に、すぐそこのマンションなんだ。早く帰ろう」

傘を私に渡してくれようとする課長の手を、そっと遮った。

彼の格好はスーツなのだし、それこそ濡れてはいけない気がする。

だけど課長は苦笑いをして、もう一度傘を私に手渡そうとした。

「古川を濡れさせたまま、オレだけ傘をさしては歩けないよ」

ほとんど無理やり傘を差しだそうとする課長に、私も苦笑いをする。

「それを言うなら、私も同じです。……だったら、一緒に入りましょ」

彩乃にこのことを話したら、どんな反応をするだろう。

課長に憧れている人たちは、きっと私を恨めしく思うんだろうな。

そんな姿を想像したら少しおかしくて、失恋仕立てとは思えないくらいに、心の中で笑っていた。
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