最後の恋にしたいから
どこまで本気なんだろう。

ドキドキする私は、課長の本心を掴めないでいる。

しばらく歩いていると、去年寿人と海水浴を楽しんだ場所に着いた。

そんなことを知る由もない課長は、さらにそこを過ぎていく。

切ない気持ちが込み上げるけど、あっさり通り過ぎてくれて良かったかもしれない。

悲しみに浸る隙がないから。

「祐真さん、あの……。どうしても、聞きたいことがあるんだけど」

「ん?何?」

もう思い切って聞いてしまおう。

その方が、少しはスッキリする。

「どうして、私を誘ってくれたの? 今まで同じフロアにいても、ほとんど接点がなかったのに……」

そうよ。

今まで少しでも仲良くしていたなら、理解出来なくもないんだけど……。

上司と部下としても、まるで接点がなかったのに。

すると、課長は手を繋いで歩きながら、少し空を見上げた。

「奈々子が夜、雨に打たれてたろ? それが、どうしても放っておけなかったから。あのまま、それっきりなんてしたくなかったんだよ」
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