最後の恋にしたいから
「雨の夜? あの日のことが、そこまで?」

言ってしまえば、私が失恋しただけのことだけど……。

「そうだよ。それが理由」

優しく微笑んだ課長に、私は笑顔を返すことが出来なかった。

スッキリしたくて聞いたのに、またもや謎が深まった感じ。

あの夜の私が、課長にとってそんなに気にかかることだったなんて。

モヤモヤした気持ちを抱えながら歩いていると、ふと課長が歩みを止めた。

「どうかしたの?」

見ると、課長の視線は海とは反対の広場に向いている。

そこは、シーズン中は屋台が出る場所で、日差しを遮るほどの高さの木々が生えている場所でもあった。

その一つの木の幹に、張り紙がしてあっあった。

『夏祭り開催! 7月4日(日)18時〜』

「夏祭りだって。奈々子、一緒に行かないか?」
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