最後の恋にしたいから
それから約20分後ーー。

やっと駅へ着いた時には、すでにぐったりしてしまっていた。

もちろん、ドキドキする気持ちで疲れきってしまっていたのだけど……。

そんな私に課長は優しく手を握ると、ゆっくりと歩き出す。

「奈々子、疲れてるじゃん。これからなのに」

課長は眉を下げて苦笑いをしているけれど、どこか寂しそうに見えて、慌てて首を横に振った。

つまらないと思っているとか、そういう誤解をされては困る。

「違うよ。疲れたのは本当だけど、緊張し過ぎでってこと。だって祐真さん、究極に色っぽいんだもん」

さすがに、ずっと抱きしめられているのは刺激が強すぎた。

すると、彼はお決まりの照れ臭さを隠すように口をつむいで、視線を泳がせたのだった。

「あのさ、奈々子のそういう一言が、オレを振り回してるって自覚してる?」

「えっ? どういう意味?」

振り回していると言われると、あまり良い印象がないだけに、少し不安になってくる。

だけど、課長は私に顔を向けることなく、屋台が並ぶ通りに向かっていったのだった。

まさか、迷惑に思われたとか、そういうのでなければいいんだけど……。

それを気にかけながら、りんご飴や綿菓子を買っていく。

陽が沈むまでの間、交わした会話は「何食べる?」とか、「人が多いな」とか、たわいないものばかり。

ここまできて、若干気まずくなりかけた空気に重苦しさを感じ始めた時、水中花火の打ち上げアナウンスが聞こえ始めた。
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