オレンジロード~商店街恋愛録~
翌日には雪菜の熱は引き、仕事に出られるようになった。
体調はまだ完全に回復したわけではないみたいだが、それでもレイジとしてはひと安心だった。
が、それから数日経ったある日、それは突然のことだった。
「実はな、この店、たたもうかと思ってるんだ」
朝、「おはよう」と言った店長の次の言葉が、このぼやきだった。
レイジは一瞬、何を言われたのかわからなくて、「え?」と、思考が停止したのだが。
気にせず店長は物憂い顔で腕を組み、
「だから、この店、たたもうかと思って」
と、もう一度、それを繰り返した。
店をたたむということは、つまりは廃業するということで。
冷静になろうと懸命に脳内でその言葉を咀嚼したが、どうやったってそれ以外の意味には聞こえない。
「どうしてですか?」
レイジが前のめりに聞き返すと、相変わらず店長は物憂い顔のまま、
「ほら、俺ももう63だろ? 正直、体もきついんだよ」
「………」
「それによ、まわりはみんな定年退職して気楽な老後の人生を送ってるしよ? それ見てたら、俺も年金もらって隠居したくなってきてよ」
確かに酒屋というのは、体力勝負だ。
瓶ビールのケースを運ぶというのは、それだけでも腰への負担は計り知れない。
恩人である店長がそう言うなら、もう無理はしてほしくない。
が、だからってレイジが素直に納得できるはずもなかった。
「それはわかりますけど、俺はどうなるんですか」
レイジはもう、自分ひとりで生きているわけではない。
雪菜との生活のために、働いているのだ。
その基盤が失われかねない事態に、焦る気持ちを必死で抑える。