初恋の君は俺を忘れてしまいました。
父さんが再婚して、妹ができて。


でも、母親だけは・・・本当の母さんしかいないと思ってた。


この人は俺になんでもしてくれた。


家事も、全部。


俺の部屋は毎日きれいに掃除されていて、洗濯もきれいに畳んでおいてある。


毎日・・・俺らのために。


食事だって、栄養が偏らないようにって、うちにきて最初の方はずっと悩んでたのを覚えてい
る。


沙菜が一度だけ、言ったことがある。


「母親って、産んでくれた人のことを言うのかもしれないけど、私は育ててくれた人のことも
母親って呼んでも、認めてもいいと思う」


この二人がうちに来て、約三年。


きっとこの三年間は自分の時間とか、趣味とか、全然やってなかったよな。


「な・・・


「ねえ、昂君。」


俺が話しかける前に先に話かけてきてくれた。


「私ね、この三年間、とても充実してたわ。私も、涼さんと同じで旦那さんを亡くして。そのとき、救ってくれたのが涼さんだったの。俺も一緒なんだって。でも、涼さんの方が私よりもずっと早く遠くの前を向いて歩いてた。私ね、そのときに、ああ、この人と次の人生歩みたいって思った。それから、昂君がいるって知って、私嬉しかった。でも、昂君は一年、二年たっても私に心を開いてくれなかった。嫌われたのかと思ったわ」


涼さん、とは俺の親父の名前だ。


・・・俺は誤解していたんだ。
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