代行物語
一瞬にして亜空間の時が止まるのを感じた・・・・が転倒した本人は大笑いしながら立ち上がったかと思うと、階段の方に向かって「こいつ~っ!やりやがったな~」と茶目っ気たっぷりにおどけていた。そうしたかと思うと、今度は回りに居る人にアイツがやったんだよと訴えながら泣きまねをした。川口は呆気に取られながらも、直ぐに駆け寄り「大丈夫ですか?」と声をかけた、どうやら怪我は無いらしい一安心したのも束の間、その女性こそが依頼主であった。
川ちゃんに向かって今度は、何故助けてくれなかったの?私のことキライ?私はキライ私怪我してないよね?代行さん乗せてって!!などと訳の判らないことを言っている、勿論依頼された訳なので送り届けるのだが、目的地は何処なのか肝心なことは未だ何も聞いていない、川ちゃんピンチ!!
しかしそこは百戦錬磨の川口、ちゃんとこんな人にも対処する術を持ち合わせていた。
怒涛のごとく言い寄ってくる彼女に対し、さりげないエスコートで気遣いをする川口に、女性の方も次第に落ち着きを取り戻していくのが手に取るように判った。
綺麗な女だからこそのプライドがあるのだろう、本人のパニクリ方は尋常なものでは無いそんな状態(場所)から早く連れ去ることが一番の得策と判断した川口は、恐らく彼女の車の位置すら把握できていないにも関わらず、彼女を導きながらその場を離れるのであった。
冷静さを取り戻した彼女は、川口に車の方向を指差し行き先をそっと告げた。
車内での会話は判らないが、恐らく川ちゃんの気遣いのある接客は、ご満悦そうに目的地で降りていく彼女の姿で容易に察しはついた。
川ちゃんってスゴイ!!佳夫はただ関心していた。
センターに空車の旨を伝え、次の指示を仰いだところ、一旦待機の命令。
最寄の待機場所に移動することになった。
その道すがら、佳夫はさっきの女性といったいどんな事を話したのか聞きたくて仕方がなかった、すると佳夫の心を見透かしたように川口の方から「あのお客さん、今日友達の結婚式だったらしいよ。二次会であの店に流れて飲んでたんだって、普段着慣れない服でヒールだったものだからあんなことになっちゃって・・・・・」
なるほど、結婚式ならあんな服装も納得だ、「でも、綺麗な人でしたね」と佳夫の言葉に満更でもない様子の川口の顔が夜のネオンに照らされては消えていた。



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