ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「香月くん、まあ、座りたまえ」



「ありがとうございます」




私は嶋田先生の言うとおりに、12畳ほどもある広大なリビングの真ん中に鎮座する黒い革張りのソファに身を埋ずめた。



リビングに通されたということは、仕事の話をする気はない、ってことか。



そうは問屋が卸さないわよ。





「さっそくですが、先生。

ご新作のアイディアはお浮かびになられましたか?」




先生が私の隣に腰を下ろしてすぐに、とびっきりの営業スマイルを浮かべて口を開いた。



先生は薄い笑みとともに「うん」と曖昧に頷き、



「香月くんは相変わらず仕事熱心だねぇ。

まぁ、まずはお茶でも飲んでゆっくりしなさい」




先生は家政婦を呼び、コーヒーを二杯淹れるように言いつけると、それに乗じて私との距離を詰めてきた。




触れ合うほどに近づかれて、私は思わず顔が引きつりそうになる。



高齢の男性らしい饐えたにおいと、コロンの香りが混じり合った体臭。


気持ちが悪い。




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