ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
でも、それを顔に出すわけにはいかない。



なんといっても、嶋田泰司と言えば、現在の文壇の重鎮。


固定ファンをがっちりとつかんでいて、まさに『出せば売れる』というベテラン作家。


嶋田泰司の新作は、出版社にとっては、喉から手が出るほど欲しいものなのだ。



その大役を仰せつかった私は、何があっても、『次回作を真栄社から出す』という確約を嶋田先生から得なければならないのだ。



だからこそ、半年以上も、このモウロクじじいのもとに通い続けているのである。




「………あら、本題に入るのが早すぎましたわね。

失礼いたしました。

つまらないものですが、お茶請けにでもと思いまして、羊羹を買って参りましたので、よろしかったらお召し上がりください」




他社の編集者から引き出した情報で、嶋田先生はここの羊羹が大好物というものがあった。



だから、わざわざ遠回りをして、本店まで行って手土産を購入してきた。




小さなことのようだけど、こういう菓子折り攻撃みたいなが、地味に効いてくるものなのだ。




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