ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
意外と鋭いな、と私は意表を突かれた気分だった。


朝比奈先生がすんなり騙されてくれなかったことで、なんだか、作り込んだ自分の声が恥ずかしくなってしまった。



私は素の声音に戻し、




「いえ、冗談です。

それで、新作のお話ではないのなら、なんのご用件ですか?」



『あぁ、うん。今夜デートでもどうかな、と思って、お誘いの電話です』



「は? デート?」




思わず大きな声で問い返してしまってから、しまった、ここはオフィスだった、と我に帰る。



隣のデスクに座っている同僚が目を丸くしてこちらを見ている。



私は「あぁ、デートの小説ですか。いいんじゃないですか」と無理やりごまかし、がちゃりと電話を切った。



それからスマホを持ってオフィスを出て、ひと気のない廊下で朝比奈先生に電話をかけ直す。


先生はすぐに電話に出た。




「………会社にかけてきてデートの話をするなんて、非常識にも程があります」



『え? あぁ、そうか、ごめんごめん』




先生はあっけらかんと笑っている。




< 125 / 286 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop