ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
『幻月の庭』



というのが、その本のタイトルだった。


淡い水色と紫で描かれた抽象画を表紙とした装丁とあいまって、どこか幻想的な雰囲気を漂わせている。



ただ、タイトルだけでは、どんな内容なのかは分からない。


純文学なのだろう、ということだけは想像できた。




「ありがとうございます。

さっそく読ませていただきますね」




そう言って頭を下げ、野口さんのもとから立ち去ろうとすると。




「香月さん、ちょっと待って」



「はい?」




呼び止められて、私は振り向いた。




「これ、もらっていって。

朝比奈先生の連絡先と住所」



「え? それなら、編集長から頂いた資料に載ってましたけど」



「いや、実は、その住所にはいないことが多いんだ」



「………は?」




どういうことだろう?


まさか、新人作家のくせに、別荘でも持ってるわけ?


まあ、あれだけのベストセラーになったんだから、それくらい可能かもしれないけど。


でも、新人で遅筆のくせに、と思ってしまう。




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