ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
この世の果ての荒廃した世界を、澄んだ瞳で見つめ、見透かしながら旅する男と少女。


ただ、それだけの話。


それなのに、これは『言葉の芸術』なのだと思った。



選び抜かれた美しい言葉だけで紡がれた、美しい物語。


ストーリーなんかいらないのだ。


彼らの始まりも終わりも、この小説には必要ではない。




………言葉にならない。


でも、とにかく、圧倒された。



編集長が言ったとおりだ。


この作家は、紛れもなくーーー天才だ。



うまく説明できないけれど、彼は、新しい境地の小説を生み出したんだ。



彼の生み出す作品を、もっともっと見てみたい。



私は本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。





「………ふん。

やってやろうじゃないの。


必ず半年以内に、新作を書いていただくわよ」





私は口許に浮かぶ笑みを必死に抑えながら、編集室を出た。




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