ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
「朝比奈先生。

新作を書いてくださらないでしょうか?」




私がそう言った瞬間、朝比奈先生はいかにも嫌そうな顔をした。




「………えぇ? 新作?

無理無理、今、書きたいものなんてないんだもん。


ねぇ、そんなことよりさぁ。

朝比奈先生、なんて他人行儀な呼び方やめてよ。

せっかくなんだから、光太郎さん、って呼んで?

俺も智恵子さんって呼ぶからさ」




こめかみのあたりで、ぴき、という音が聞こえた気がした。


私は怒りを必死に抑え込み、なんとか笑顔を保つ。




「………私は智恵子じゃありません。

智恵、です。

あなたも光太郎ではなく、光太さんですよね?


そんなことより、新作を」



「いやいや、そんなことより、俺たちの運命的な出会いについて」



「いえ、そんなことより、先生の執筆活動について」



「そんなことより」




意味のわからない言い合いが始まりかけたところで、横から「ぷっ」と噴き出す声が聞こえた。


見ると、ソウコさんがソファに足を組んで、おかしそうに口許をおさえている。




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