ひまつぶしの恋、ろくでなしの愛
朝比奈先生はその間、呑気そうな顔で私を眺めていた。



三分の一ほど片付いたところで、私はあることに気づく。



ここにあるのは、たぶん何百冊にものぼるぼろぼろになった古い文庫本や、最近話題になった単行本ばかり。


小説家にとって絶対に必要なはずのノートやメモも、一枚の紙さえもない。



視線を巡らせてみたけど、パソコンもどこにもないようだ。



………おかしい。


どういうこと?



私はさり気ないふうを装って、リビングに隣接した寝室のほうに近づき、中を覗き込んだ。



窓際にセミダブルのベッドが一つ。


あとは、カーペットを埋めつくす本、本、本。



やっぱり、ない。


小説の執筆に必要なはずのものが、この部屋には何一つない。



それどころか、リビングにはテレビもソファもなく、本に占領されて食事の皿さえ載せられないようなテーブルだけ。


人がまともな生活をしている場所とは思えなかった。




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