花の下に死す
 「急ごう、こんな所に長居して見つかっては、不届き者として非難される」


 一気に駆け抜けようとした時のことだった。


 部屋の中から突然、一匹の猫が飛び出してきた。


 可愛い三毛猫。


 義清がつい目を奪われていると、猫は御簾(みす)にいたずらをし始めた。


 すると御簾が外れてしまい、部屋の中が丸見えになってしまった。


 「あらあら、これは大変」


 女房の誰かが、外れた御簾を付け直そうとした時だった。


 「猫が外に飛び出したわ」


 奥から一人の女が、軒先へと歩み寄ってきた。


 (あ……!)


 義清は雷に全身を貫かれるような感覚を覚えた。


 その高貴なる女性は……。


 「いけません待賢門院さま。私たちが連れ戻しに参りますゆえ」


 猫を追って外に出ようとしているこの屋敷の主を、女房たちが必死で押し留めていた。


 (あれが……、待賢門院藤原璋子)


 絶世の美女だった。
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