花の下に死す
 義清はしばし言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。


 はじめて目にする、藤原璋子。


 鳥羽院の中宮。


 崇徳帝の母后。


 そして……長きに渡り亡き白河院と不義密通を続けていた女。


 そういう過去から判断して、どんな妖艶で高慢な女だろうかと義清は思い描いていた。


 だが今目の前に立つ待賢門院は、予想していたよりはるかにあどけないお方だった。


 幼いと述べたほうが正しいか。


 魅入っているうちに、周囲の女房たちは猫が外した御簾を直し終え、元通り内の様子は窺えなくなってしまった。


 そして何事もなかったかのように……。


 (義清、義清、ずらかるぞ)


 清盛が義清の袖を引っ張った。


 義清はようやく我に返り、小走りでその場を後にした。


 後には散り始めた桜が静かに舞うだけだった。
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