花の下に死す
 やはり逆効果だったかもしれない。


 もう一度強く抱いたら、璋子はさらに泣き出した。


 「璋子さま、愛するがあまりつい夢中で」


 壊してしまいそうなほど強く抱いたことを詫びていたら、璋子は思わぬことを口にした。


 「愛しているならば、優しくしてくれるはず。院は私に無理強いなどなさらなかった」


 「院?」


 璋子は平然と鳥羽院の名を口にすることが多かった。


 それがどれだけ、義清の心を波立てているのかも知らずに。


 「そう……なのですか。院が」


 鳥羽院が優しく璋子を抱き、それに璋子が甘く応えている姿を想像し、義清は嫉妬する。


 「あの幼い夏の日、まだ何も知らない私を優しく愛し、女にしてくださったあの日から、院はいつも私に優しく」


 「え……」


 「院」とは鳥羽院などではなく、亡き白河院のことだったのだ。


 かつて数十年もの長きに渡り院政を敷き、朝廷を支配した絶対君主。


 璋子の育ての親であり、初めての相手。


 璋子を未だに支配する強大な陰に、義清は恐れおののくしかなかった。
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