花の下に死す
 「院は私を優しく抱いてくださったわ。院の胸の中で私は、女としての喜びを知り、我も失うほどの快楽に溺れ……」


 「やめろ!」


 急に堪忍袋の緒が切れ、義清は大声を出してしまった。


 突然の義清の険しい表情と言葉に、璋子は恐れおののくしかなかった。


 「すみません。ついむきになってしまいました」


 「鳥羽院と同じだわ。鳥羽院も私が白河院の思い出話を口にしただけで、急に怒り出したの。意味が分からないわ」


 「璋子さま……?」


 他者の心の機微を察する能力が、璋子には大いに欠如していた。


 生まれてからこの方、穏かな春風のような世界の中に漂うがままに生きてきたゆえか。


 だがこんなに苦しめられても、義清はなぜか璋子から離れられない。


 そればかりか愛しさが募る。


 愛することを止められない自分が悔しくて、つい璋子に八つ当たりのような冷たい仕打ちに出てしまう。


 義清は今になって、鳥羽院の苦悩を思い知るのだった。
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