叶う。 Chapter2




このピアノの音色が終わったら、私の名前が呼ばれる。

演奏はクライマックスに入っていた。

私はゆっくりと深呼吸を繰返した。

すると、シオンは突然私を引き寄せると耳元でこう囁いた。


「獲物の目をしっかりと捕らえるんだ。お前は狩る者だ。それを忘れるな。」


そう言った瞬間、会場は拍手で包まれた。

私はごくりと唾を飲み込むと、ゆっくりとシオンを見つめて頷いた。




「中学生部門19番、月島アンナ、曲はベートーヴェン、月光ソナタです。」



私はシオンに手を引かれながら、舞台の階段をゆっくりと上がった。

会場からギリギリ見えない位置で、名残惜しくもシオンの手をそっと離した。


私は真っ直ぐに前を見て、背筋をきちんと伸ばしたままライトに照らされたステージの中央へと歩を進めた。

ピアノの前に立ち、ゆっくりと両手を組み会場に向かって丁寧にお辞儀をした。

出てきた私に、たちまち盛大な拍手が送られた。

そして私は審査員席に身体を向けると、真っ直ぐに中央にいる獲物を見つめた。

瞳が合った瞬間、ニッコリと微笑んだ獲物は私の瞳をじっと見つめている。


逃がさない・・・。


私は心でそう言って、優しく笑みを浮かべてドレスの裾を持つと膝を折りゆっくりとお辞儀をした。

獲物はそんな私をじっと優しく微笑みながら見つめていた。
その笑顔の裏に隠されている顔を私は知っている。

だけれど、もう不思議と恐怖は感じなかった。




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