叶う。 Chapter2
「只今より、中学生部門の授賞式を行わせて頂きます。皆様におきましては、受賞者にあたたかい拍手をお願い致します。」
アナウンスがされたと同時に、進行役の人が審査員席に向かい1枚の用紙を受け取った。
私はそれを視界の端で捉えたけれど、なるべく気にしないように真っ直ぐと前を向いた。
「では、早速ですが本年度の中学生部門の最優秀賞に選ばれましたのは……」
私は深く息を吸い込むと、ゆっくりとその時を待った。
「ベートーヴェン月光ソナタで素晴らしい演奏を披露して下さいました、月島アンナさんです。」
名前が呼ばれた瞬間、会場が盛大な拍手で包まれた。
私は膝を折り会場に向かって頭を下げたけれど、何故か夢の中に居るような、不思議な感覚だった。
あんなに欲しかったグランプリが、今自分の手に入ったというのに、何故か心が動く気配はなく落ち着いていた。
そして審査員席から、あの男が私に向かって歩いて来た。
その手にはトロフィーが握られている。
隣には、年配の女性が花束を抱えてその男と一緒に私の目の前にやって来た。
私は浅く呼吸を繰り返し、何とか指先が震えないように両手をしっかりと握り締めた。
そしてゆっくりと頭を下げたけれど、顔を上げた私の視界に映ったのは、私をじっと見つめるあの男の視線だった。
男は薄ら笑いを浮かべている様な気がするのは、私の錯覚なのだろうか。
私は動揺がばれないように、男から女性に視線を移した。