叶う。 Chapter2
「おめでとう。」
女性はそう言って、大きな花束を私に手渡した。
「ありがとうございます。」
私がそう言うと、女性はにっこりと笑った。
「本当に素晴らしい演奏でした。」
女性はそう言って、一歩後ろへ下がった。
会場は拍手で包まれていて、きっと私達のそんな会話は誰にも聞こえていない。
男が私に近付くと、あれだけ落ち着いていた心臓が途端にに激しく鼓動を刻み始めた。
男は相変わらずにやついた顔付きで、私に向かってトロフィーを差し出した。
私は男に触れない様に、しっかりとトロフィーを受け取った。
また盛大な拍手が会場を包む。
私は男と視線を合わせないように一礼した。
だけれど顔を上げた瞬間、男が小さな声でこう言った。
「……大きくなったな。」
途端に全身が粟立つのを感じた。
気付かれていた事がショックで、私は吐き気で思考が止まった。
だけれどこの場で何かを言うことも、することも出来ない。
私は身体が震えないように、シオンの冷たい瞳を思い浮かべて男を見つめた。
そしてただ微笑んだ。
男はそんな私を一瞬欲にまみれた視線で見つめた後、審査員席に戻って行った。
私は男からの距離が離れたからか、途端に全身の緊張の糸が解れたみたいに力が抜けた。
その瞬間、何だか急にトロフィーがとても重くなった気がした。