天翔ける君
身を起こした恵都がじっとその様子を見ていると、千鬼がこちらを向いた。
少しだけ眉根を寄せた、かろうじて不機嫌と分かるような表情で恵都に告げる。
「こいつのせいで食欲が失せた。明日食ってやるから大人しくしていろ」
恵都はまるで荷物のように千鬼に抱えられ、
「まだ話は終わってないぞ!」
と、まだ怒っている男を残して部屋を出た。
千鬼は無言で廊下を進む。
廊下には明かりが一切なく、また月明かりも届かない。
千鬼の縦長の瞳孔を思い出して、夜目がきくのかもしれないと恵都は一人納得した。
「あの、千鬼さん、歩けるから降ろして」
恵都はおずおずと申し出た。
こんな荷物のような運ばれ方は嫌だし、男に触られるのには慣れていない。
「お前は足を捻っているし、人間は暗闇ではろくに歩けないだろう」