天翔ける君
――忘れていた。
足が痛まないのはきちんと手当てされているからだろう。
でも千鬼の言う通り、手助けなしにこんな真っ暗な中歩ける気はしない。
「お前は明日食う。女だと思って触れているわけではない」
恵都の頬がさっと朱に染まった。
――こっちだって、男として特別意識してるわけじゃないのに。
千鬼はある一室の襖を開けて、恵都はそこにひかれていた布団の上に降ろされた。
運び方のわりには丁寧で、食うと言いながら怪我の手当てをしてくれる。
――よく分からない男だ。
鬼だとかなんだとか、もう本当にわけが分からない。
千鬼は恵都に向かい合うように布団に腰を下ろした。
やけに距離が近いが、恵都は平静を装う。
また意識しているだとか思われるのは心外だった。
とりあえず、恵都は千鬼をよく観察してみることにした。
輝く白髪は腰に届きそうなほど長い。
緩く波打っていて、それが気だるげな印象を与え、千鬼の美貌をより妖艶にしている。
妖艶という言葉が当てはまる男を恵都は初めて見た。